クリムゾンの迷宮


クリムゾンの迷宮



貴志祐介は俺のもっとも好きな作家の一人で、どの作品からも多大な影響を受けているが、一番最初に読んだということで、この物語を紹介する。

ストーリー
主人公の藤木は、この世の物とは思えない光景の中で目を覚ます。真紅(クリムゾン)色の山に囲まれた、見たこともない景色。山の間の道は複雑な迷路のように入り組んでいる。
ここがどこで、何故自分がここにいるのかもまったくわからない。
彼の傍らには小さなゲーム機が置かれていた。そしてそのディスプレイには「火星の迷宮へようこそ」というメッセージが……。

角川ホラー文庫から発売されているが、厳密にはホラーと呼べるかは微妙なライン。
迷宮に集められた数人の男女は、ここから抜け出すためにゲームをやらされる。襲い来るモンスターから逃れ、生きて迷宮を脱出するデスゲーム。死んだ者はもちろんゲームオーバー。
このゲームは人間に仕組まれた物で、いわゆるファンタジー的な物や超常現象は一切出てこない。ここが、この作品がホラーと呼べるかどうか、という部分だが。題材もストーリーも雰囲気もライトノベルに近い。もっとも、内容は濃いが。
プレイヤーに襲い来る喰屍鬼(グール)と呼ばれるモンスターがいるのだが、こいつも実在しない化け物や悪鬼の類ではない。
どういうことかというと……それは本編を読んでもらいたい。これの描き方が、この小説の、最も凄い部分の一つなので。超常現象はないが、かなり怖いというか、グロテスクな話ではあるので、ある意味ではホラーと言えるか。

彼らが、ゲームをやらされる迷宮も当然、火星ではなく、地球上に実在する、とある場所だったりする。クリムゾンの山が織り成す自然の迷路、洞窟や茂みの中を進んでいく、冒険やサバイバルも見所の一つ。途中に主催者の用意した「アイテム」が隠されており、それをゲットすることで、先の冒険を有利に進めることができる。また、ゲームを進める為にはある種の情報を集めるのが必要不可欠になる。まさにロールプレイングゲームだ。
まったくの余談だが、俺はこの小説で特殊警棒の正しい使い方を知った。
殴るんじゃなくて、突くんだ。肋骨くらいなら、一撃で粉砕できる。
……らしい。試したことないのでわからないが。

以前読んだ小説の書き方本に、小説は「食事」のシーンをいかに描くかが大事だと書いてあった。人間が生きる上で、最も大切な欲求の一つであり、そこに訴えかけることで、読み手の本能的な部分を刺激するとかなんとか。だいぶ前に読んだので、細かいことは忘れたけど。
クリムゾンの迷宮は、この食べ物の描写がうまい。サバイバルで獲得した物だから、はっきり言って普通なら絶対食べたくないゲテモノばっかりだが、なんかとても美味しそうに感じる。オオトカゲや、カエルや、芋虫や、さらにもっと恐ろしいとある生物の肉まで。美味しそうで、食べてみたいっていう衝動にかられるから困る。勿論、読んでる時限定だが。

この話で、俺が一番好きなのは、エンディング。ゲームをなぞらえた話だけあって、終わり方もゲーム風。いわゆるトゥルーエンド、そう文字通りの。
意味が分からないかもしれないが、それは実際に読んでもらいたい。切ないというか、ほろ苦いというか、なんとも言えない気持ちになるエンディン
グだ。
ゲームをよくする人間にとっては、トゥルーエンドとか慣れ親しんでいるかもしれないが、当時の俺にとってはかなり衝撃的だった。こんな終わりも、あるんだなって。

余談だが、2ちゃんねる貴志スレッド等では、貴志祐介がギャルゲーマーであるというのは、半ば常識になっている。別作品「天使の囀り」ではエロゲオタのキャラを恐ろしくリアルに描写していたし、「青の炎」で描かれた学園生活はギャルゲーに出てくる学校みたいだから。

「十三番目の人格」「黒い家」「天使の囀り」「青の炎」「硝子のハンマー」。彼の作品は全てお勧めだ。
新作「新世界より」はまだ未読だが、とても楽しみだ。
彼は伏線の張り方が異常に上手いので、その辺りがとても参考になる。

恐怖系が好きなら「十三番目の人格」「黒い家」
グロテスクさが好きなら「クリムゾンの迷宮」「天使の囀り」
ホラーではない、一般的ミステリーを望なら「青の炎」「硝子のハンマー」がお勧め。

「黒い家」「十三番目の人格」「青の炎」実写映画化されているが、正直、出来は微妙なのでこちらはお勧めできない。

また余談になるが、「青の炎」はひぐらしの祟殺し編によく似ていると言われる。
両者共に「愛する者を守る為に、完全犯罪による殺人を目論む少年」の物語だ。おそらく両者に関係はないと思われるが、金属バットという共通アイテムも出てくる。興味のある人は読み比べてみると、面白いかもしれない。



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