愛と幻想のファシズム


※映像は小説とは関係ありません。

村上龍の作品。高校時代に読んで普段は本棚に眠っているのですが、たまにふと読み返すことが。
長いので通して読んだのは一度だけだが、多感な時期に読んだこともあり、かなり俺の人生観等に影響を与えている。

物凄く簡単にストーリーを説明すると、主人公の鈴原冬二と相田剣介が政治結社を作り、日本および世界制覇を狙うという話。この世の中には、どうしようもな
いグズが多すぎる。そんな価値のない社会の奴隷的人間たちを廃し、優れた強者
の社会を作ると。

あらすじだけ書くと、かなりむちゃくちゃな話に聞こえる。るろうに剣心の志々雄真実「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬ」かよと。
でもこれリアルに書けてるんだよな。下手な作家が書くと漫画とかみたいなライトノベルなりがちでしょうが、さすが村上龍。現実の話として書けている。かなり政治経済の勉強とかしたらしい。
以前、ヒトラーのドキュメンタリー映画と本を読んだんだがかなり似ている。この小説も、ヒトラーのドキュメントも国の実質トップまで上り詰めたところで終
わる。そこから先は……まあみなまで言う必要はないということか。
極左や新右翼、官僚、独自に戦闘訓練を重ねた不良少年、パソコンオタクのハッカーに精神科医。
そういった、様々な人間をメンバーに取り込み、日本の政権獲得、およびアメリカの巨大企業との戦いを繰り広げる。日本がアメリカの奴隷国になるのを阻止するために。
この本を出版した時期はまだそうでもなく、警鐘の意味合いを込めてたみたたいだが、今の時代から見ると、最早手遅れなほど完璧に日本はアメリカの属国になっているからなぁ……。
作中では様々な陰謀や騙し合いが出てくるんだが、そのせいで実際の事件とか物事を考える時に、まず陰謀論が浮かんでくるようになってしまった。これは酷い。
いやぁ、だって普通に考えるより、世界は陰謀に満ち満ちているって考えた方が、面白いじゃないですか。
この小説で個人的に気になったのは「黒豚の耳」というもの。歴史上の大きな出来事を、コンピューターで解析し、図形として書き出すと「黒豚の耳」と呼ばれる、一つの図形になるらしい。また、その図形は宇宙線やDNAの解析図形と同じだという。大きな物事に共通して存在する一つの物、黒豚の耳。つまり、それは神というものの存在を表すのではないか?
これって実際にあるんだろか? それとも村上龍の創作か?気になるので、知ってる人いたら情報求む。

良作の条件として、魅力的なキャラクターというのがあるが、この作品もやはりキャラがかなり立っている。
主人公の鈴原冬二はオブラートに包むことなく、この世の真理をズバズバと言い放つ男。俺の好きなタイプだ。「弱者は死ね」という思想だが、彼の言う弱者とは、女子供や障害者といった者ではない。社会や周囲に隷属し、自分では考えることも、主張することも、行動する事もできない、奴隷人間。俺の嫌いな空気読むことしかしない、ことなかれ主義者だ。
もっとも、俺も口で言うだけで実際には何もできないので、実際に冬二がいたら確実に粛清される側になるだろうが。だからこそ、こういうタイプに憧れるんだけどね。
冬二の親友であり、彼をカリスマとしてプロデュースしたのが、ゼロこと、相田剣介だ。映画制作をしている芸術家タイプ。ほかのメンバーは冬二の主義主張に惹かれてきたのに対し、彼は思想を越えた親友である。目的の為には平気で人殺し等をする連中が、二人のときは子供みたいなのが良い。
鈴原冬二、相田剣介という名前、どこかで聞いたことある人もいるんじゃないだろうか?
そう、新世紀エヴァンゲリオンの運動バカ関西人の鈴原トウジと、ミリタリーオタクの相田ケンスケだ。エヴァンゲリオン監督の庵野秀明氏はこの愛と幻想のファシズムが好きだったらしく、他にもキャラ名やモチーフで元にしている部分が多々ある。
冬二の参謀、洞木は委員長の洞木ヒカリ。私設軍隊の隊長、山岸良治は、加持リョウジって具合に。
キャラ名を考えるのに、好きな話から拝借するのは俺もよくやるし、別に良いと思うのだが、これの場合、一つ問題が。
先にエヴァンゲリオンを見ていたので、小説のキャラのビジュアルイメージが、運動バカの関西人とミリタリーオタクでしか浮かんでこない! なんという三馬鹿トリオ……(注:除く、碇シンジ)。
個性的なキャラクターたちの中で俺が特に好きなのは、私設軍隊「クロマニヨン」の隊長、山岸良治。制作中のノベルのキャラ、山岸赤夏の名字は彼から拝借しました。
山岸が冬二と出会ったのは十代の時。冬二の演説に感化され、彼に接触する。彼はエネルギーや闘争心に溢れ、それを向ける矛先がわからずにいた。仲間たちと戦いの訓練をし、浮浪者相手に実戦に明け暮れる日々。そんな若者に、冬二は戦うべき相手を指し示してやる。そして山岸のグループは最強の戦闘部隊「クロマニヨン」へと発展していく。
冬二と山岸はかなり似ている部分がある。冬二は狩猟が趣味であり、かなりの腕前のハンターだ。彼の弱肉強食の主張もそこからきている。「もし、狩猟に出会わなければ、お前は今の社会には適応できず、人殺しになるしかなかっただろう」というような言葉を冬二がかけられる場面がある。
戦うことしか自分を見いだせない、戦う目的もわからない、そんな山岸は狩猟に出会わなかった鈴原冬二のIF(イフ)の姿だ。だから冬二は山岸を拾った。やはり思想だけでなく、こういう人と人の繋がりというのは魅力を感じる。
彼の組織する「クロマニヨン」はとにかく格好いい。俺の好きなナチス親衛隊にアメリカ海兵隊を足したような部隊だ。ちなみに山岸自身、ナチス親衛隊が好きらしい。そういう面でも、共感が持てる。
山岸の同窓生で、クロマニヨンの隊員の飛駒という人物がいるのだが、彼も山岸と同じくらい好きだ。
飛駒はサイバーテロ専門の天才ハッカー。情報操作や、合成で作った似せのニュース等で、世の中を混乱に導いていく。今でこそ、コラ画像や動画が当たり前のように普及して、そんな情報操作が実際にあったところで大した効果は望めないだろうが、当時としてはかなり画期的だったんじゃないだろうか?
上記の「黒豚の耳」について語ったのも彼で、神の存在が怖くなってアメリカの変なカルト宗教にはまっていた時期もある、ちょっと危ない青年だったりもする。
学生時代について、かなり自由で色んな奴がいる高校でしたよと語ったのに対し「君や山岸を見てるとよくわかるよ」と返したのにはちょっとうけた(笑)
冬二と剣介と同じく、この二人も普段は戦いとかテロしてるくせに、オフのときは妙に子供っぽくなるのが可愛い。まあ冬二たち他のメンバーからみたら、年齢的には本当に子供なわけだからな。


山岸「しかし、合成っていってもよくできてるもんだよな。例えば俺と好きな女や女優がセックスしてる動画作ったりとかも、できるのか?」
飛駒(ニヤニヤ)
山岸「なあ、できるんだろ?」
飛駒「できるけど、高いよ? その金持って女優のとこ行った方が早いんじゃない?(笑)」


飛駒「このままじゃ日本はコンピューターも使えない、百姓のクズしかいない国になってしまう!」
山岸「おいおい、コンピューター使えない奴は百姓の屑かよ」


てな感じの子供っぽい会話(原本手元にないので、弱冠言葉が違ってると思うが)が見てて和む(笑)。
他にも、この小説は全体的に、俺の好きな台詞回しや一節が多い。


「努力が実るというのは大嘘だ。努力して得た物に価値があるのはスポーツと芸術だけだ」

「自分の嫌なことを日頃からやってる奴隷体質の人間は信用できない。人に嫌われたり、裏切ったりするのは誰だって嫌なはずだ。嫌なことを普段からしてる奴は、平気で人を裏切る」

「君には磁力のようなものがある。君は人間を惹きつけるだろう。だがきっと君のところへ集まってくる連中はみなクズ、カスだ、それは君自身が一番よく知っているはずだ」

て感じの。例のごとく原本がないので台詞に違いがあるのはご勘弁を。
余談だが、高校のとき、俺は図書委員会副委員長でホームページ担当だったんだが、本の紹介コーナーで上記のような一節を引用しながらこの作品を紹介したら、学校の自主規制で削除されていた。
先生に聞くと、表現が過激過ぎてアウトらしい。だったらそんな本、図書室に置くなと言いたい。
同作者の「希望の国のエクソダス」も似た作風なのでお薦め。また「悪魔のパス、天使のゴール」にも、まったく違うキャラクターとしてだが、冬二と剣介という人物が出てくる。


この話には色んな所にプライドという言葉が出てくる。プライドを持ってない奴はクズだ、人は生きる上でプライドを持っていなければならないと。
母親に小さい頃から、似たような事を言われてきた。プライドを持って生きろと。
それも、その場でかっこつけるだけとか、下らない見栄とかではなく、大きな目標を持ちそのためにはどんなかっこ悪いことでも、みっともないことでもする、そういう一本筋の通ったプライドを持てと。そういう生き方というのは、とてもとても難しいものです。







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